近年、働き方の多様化で保護者がリモートで働ける環境も整いつつあり、子どものための海外教育移住も増えています。特にASD(自閉スペクトラム症)やADHD、LD(学習障害)といった発達特性やグレーゾーンのお子様の留学の関心も高まっています。本日は、カナダの特別支援で働く日本人の先生であり「日本サイエンスオブリーディング」主宰のRieさんにカナダの実際の教育現場について、留学アドバイザーの藤がお話をお伺いしました。
カナダオンタリオ州の学校の多様性
カナダのオンタリオ州には「Public」と「カトリック」の2種類の公立校と、「私立」の3種類があります。Connect Study海外留学の留学アドバイザーを務める私が寄稿した講談社「FRaU Edu」の記事でも触れましたが、トロントには非常に数多くの私立の小中学校が存在しています。
「Public」「カトリック」「私立」、さらには各学校や担任の先生により、発達特性のあるお子様へのサポートは違いますが、今回は、一般的なお話と、Rieさんのこれまでの体験についてお伺いしていきたいと思います。
Rieさんは、カナダのオンタリオ州のカトリックの公立小学校でEducation Assistantとして、発達障害や障害児のサポートを行っておられます。
Connect Study海外留学の提携校のボーディングスクールでは、発達障害のことを、Learning Difference(学び方が違う)と表現をする学校もあります。これは、発達障害のある子どもは他の子どもと学び方が違うけれども、素晴らしい才能があり、その違いをフォローすることで力を伸ばすという考え方です。また「周りと違うこと」や「間違えてしまうこと」に対しても寛容で、さまざまな価値観が共存するカナダ。日本に比べて教育現場は実際にどう違うのでしょうか?
今日は、グレーゾーンや発達障害で海外での教育を検討されているご家族に向けて、多様な個性が尊重されるカナダの教育現場に迫ります。
授業中に言語アプリやPDF読み上げ機能〜多様な学習形態で個別のニーズに応える
藤) Rieさんは日本でも支援学級で働いてこられて、両方の現場をよくご存知なわけですがADHD、ASD(自閉スペクトラム症)や読み書きに特徴のあるLD(学習障害)の子ども達のサポートについて、日本との一般的な違いはどういうところにありますか?
Rieさん) 日本の学校は素晴らしく支援級には個別の指導計画も導入されていますが、両国の違いで言うとカナダではより多様な学習アプローチがあることと個別指導計画「IEP」が進んでいることです。もちろん、これは私立か公立や、その学校によっても内容や実際にどこまでできるかという質が違ってきますが、一般的には言えると思います。ちなみに、公立でもオンタリオは「Public」は支援級を別で設けるのに対し、「カトリック」はinclusion(包括的/一緒にあること)を大切にし普通級で一緒に学んでいます。
補足:「IEP」とはIndividual Educational Planの略で、発達障害のある子どもたちそれぞれに合わせた学習プランを作成し、その計画に基づいて教育を行おうというもの
私の学校での具体的なサポートでいうと例えば、クラスで集中が難しいADHDやASDの子どもに向けた「センソリーパスウエイ」という仕組みが廊下にあります。授業中でも、休憩が必要な子どもたちは外に出て、パスウエイ(道筋)に沿って、ジャンプをしたり走り回ったりして息抜きをし、その後教室へ戻ってきて再び集中をします。
音に敏感な子どもが集中をしたい時用に防音ヘッドホンが教室にあり、自由に使い学ぶこともあります。子どもが快適なように椅子に座りやすいクッションに座っていたり、グラグラ動く椅子を使っていたり。Youtubeで運動の動画を見て、ジャンプをしてから学習に戻ったり、周り視覚を遮り集中力を高めるための机に置く紙製の衝立ての教具も用意されていたりします。これらは、私が勤務する小学校の場合、発達特性のない子どもでも、必要に応じて使うことができます。
他にも、フランス語の授業中に他の子どもたちがペンと紙で単語を覚える作業をしている時間に、特性のある子が語学学習アプリ「Duolingo」を使ったりもあります。紙とペンかを使うか、アプリを使うかで、学習手段は違いますが同じフランス語学習をDuolingo でやっているわけです。
理解力はあるけど読解力が低い子には、パソコンでPDFが自動読み上げができるシステムを導入することもあります。
そして、日本と大きく違うのは、こういった取り組みは、支援学級の先生でなくて、一般の先生にも広く浸透しているということです。
藤) カナダでは発達特性のあるなしに関わらず、個別の学習スタイルが尊重されるということですね。そういえば、私の娘がカナダの小学校に入学したばかりの頃、英語で授業についていけず「お手洗いに行きたい」と何度も先生に言いにいくことがありました。最初は先生も何度もトイレに行かせていましたが、後からストレスからきていると分かった先生が「校舎内を1周しておいで」と言われてしばらく授業中に一人で休憩させてもらっていました。授業中に教室の外に出て良いなんて、私の頭になかったので、面白い配慮だと驚きましたが、これもうちの子どもにあった対応をしてくださったわけです。後から先生に直接「今は授業について行くのも言葉の壁で大変だから、集中力が切れたら歩いてきておいでと促しています」と伺いました。こういった一般の先生にも様々な取り組みが浸透していると、留学したばかりのケースはもちろん、支援級には入っていないけれどもグレーゾーンかなという場合で音や学び方に個別の配慮なお子様がいる場合なども、こういった個別の配慮を受けられると、より子どもの可能性が伸ばせそうだなと思いました。
テストにノート持ち込みや時間延長も可能な柔軟性
藤) もしもADHDや学習障害や識字障害などのLDの特性がある小学生や中学生、高校生がカナダに留学する場合、日本よりカナダで優れている点として何かありますか?
Rieさん) カナダで優れている大きな部分としては先ほどの「IEP」が進んでいることだと思います。これはADHDやLDなど、発達特性のある子どもは、それぞれ学び方や得意や苦手が違うので、各個人の教育プランと教育目標を作り、それに沿って学びましょうというものです。
たとえば、算数の学習の場合「他の子どもが掛け算をやっているときに、この子は1桁の足し算まではできるので、次は2桁の足し算をやりましょう」であったり、英語だったら「スペルのこのルールの部分を学びましょう」や「この子はテストの時間は余分にみんなより1時間必要です」とか。「ストレスがいっぱいになり散歩が必要になったら、いつでも水を飲みに行ってもいいです」とか。その子どもの特性に合わせて個別の学習プランを組みます。
これは学校により変わりますが、公立の場合、WISCの心理検査をした後、個別の学び方や性格の傾向をもとに、学校の先生が「IEP」を作成することが多いです。新学年が9月から始まるカナダでは、10月に1回目の「IEP」を作成し、3ヶ月間はそのプランに沿ってやってみる。3ヶ月後に見直しをして、次の3ヶ月は新しいプランでやる、という形で1年に何度かトライアンドエラーをしながら進めるというものです。実際にどこまでできるかというのは先生や学校によるところが多く、公立学校の場合、教員の数が不足していて、発達特性のある子どもを十分にケアができないという点が実際にありますが「IEP」があることで本人も保護者も先生も進む方向がわかります。
そのほかも、カナダでは「IEP」を高校生の時に作成すると、大学やカレッジに入学した後も使えます。大学の先生が「3日でレポートを出しなさい」という課題が出た場合、学生が先生に「私のIEPでレポート作成には1週間が必要というふうになっているので1週間をください」という形で交渉もすると聞いています。
またテストの概念が違って、日本だと暗記が必要ですが、発達特性のある子どもは理解力はあっても暗記が苦手な子供もいるわけです。そういう場合は、ノートをテストに持ち込み回答をしたりもします。または時間をかければできるという場合は30分追加したりもします。LDで読めないけれども、聞いたことは理解している学生もいるわけです。そうした場合、それぞれの子の特徴に合わせたテストや学び方があるという点では、カナダは進んでいると思います。だだし公立の小中高の場合は発達障害のサポートをするスタッフの数が足りておらず、十分なケアが行き届いていないと言う大きな問題があります。日本からの留学の場合で発達特性のある子どもは、私立の学校の方がいいかもしれません。
アルファベット学習の工夫にUFLIという最新の指導方法を
藤) カナダで私の娘が小学校留学をしてから、日本とカナダの学校はどちらも良い環境であり、長所短所、両方を感じますが「先生がその子に合わせた学習アプローチで」というのは多様性を象徴するカナダらしいなと思いました。具体的に今、Rieさんが教えておられる学校ではどんなサポートをされていますか?
Rieさん) 色々な子どもがいてその日によっても変わりますが、週に何度かは読み書きが苦手な子に、おやつを食べる時間に時間を合わせて週に何度かリーディングのサポートをしています。学習障害があり、私が出会った3年生の時はアルファベットも分からず、授業を放棄するようなお子さんでした。現在6年生になりました。
最初の頃はアルファベットを教えるためにポケモンのキャラクターの塗り絵をして、そのキャラクターの名前のアルファベットを使って子音を教えていました。サイエンスオブリーディング(下記補足)という科学的に読み書きを教える指導方法を使ってサポートすることで、本人は今、読めて書けるようになっていますよ。実は私が導入して、カナダの子ども達や英語に困っている日本のお子さんに使っていたサイエンオブリーディングですが、去年からカナダでは必須科目になりました。読み書きにつまずいているお子さんに、サイエンスオブリーディングを使ったプログラムUFLIを使って、指導を行っていくことで、ネイティブでも日本のお子さんでも読み書きができる子どもがすごく増えていっています。
補足:UFLI(University Of Florida Literacy Instituteの略)。サイエンスオブリーディング(科学的な読み方)を明確かつ体系的に教えられるプログラム。カナダの多くの教育委員会で必須項目となっている。
細かな間違いに対する寛容さと精神的負担の軽減
藤) 「周りと一緒に同じことを」あまり求められないカナダの場合、発達障害の子どもたちや親に対する周りの理解が違ってくると思うのですが、Rieさんはどうお感じになりますか?
Rieさん) 日本の集団生活の「右ならえ」がこちらはないので、カナダは社会的なプレッシャーも少なく、自由度が色々な面であると思います。学び方も、ホームスクーリングも一般的ですし、学び方もオンラインで受けられたり、先ほどお話ししたようなヘッドフォンの使用がOKだったり、休憩を個別に取れたり、テストにノートを持って行けたりしますので、個別に学習しやすい環境が用意されています。あとは、日本のような中間テストや期末テストはないし、低学年だと宿題もないことが多いですよね。もちろんカナダも小さな毎回のテストはあり、宿題もあることもありますが、日々の学校での学習の方が大事になります。
実は、日本の学習障害の中学生や高校生の子どもが困っていることに、宿題の量があります。私がオンラインで教えている日本の発達障害のお子さんは、英語の中間テストで0点の学力にも関わらず他の子どもと同じ宿題が出るため、内申点のためにお母さんと2時間かけて宿題をやり遂げたというのがありました。こういうのはカナダではおこらないです。また、たとえばアルファベットの書き方が少し違うから間違いになる、というような採点の方法はカナダはなく、Gの形が線の形が少し曲がり方が違うのでバツという細かな間違えをチェックする採点方法にはならないため、気楽だと思います。
「生み出す」教育が発想力を育む
藤) カナダの教育は考える力や発想力をより育むと言われています。私個人も、日本とカナダ両方で医学研究されている知人から「カナダの小学校は、きっちりしていないし、日本に比べて勉強しないし、これでいいのかな?と思うことがある。しかし研究者を見た時に、カナダの方が優秀な人が多いんです。理由はクリエイティビティが違う。これは研究に必要な力なんです」と聞いたことがありました。私はこのクリエイティビティの違いはどこから来るか、ずっと考えているのですが、どうRieさんは思われますか?
Rieさん) 私もその方に同感です。実際に小学校の中で働いて、こんなにゆるくて何もしていないのに、医者や弁護士にもなるし、勉強ができないわけではないんだなぁ…と考えた事があります。カナダは中学生くらいまで「子どもの時は子どもらしく、遊びや習いごとに時間を費やす」人が多いと思っています。 一方で、高校生からは違って「とにかく意見を書かせる。とにかく自分の思いを述べさせる」そいう機会が非常に多いと思います。日本だと歴史や科学など暗記の勉強が多かったと思うんですが、暗記に長時間を費やしている様子を見ません。むしろ「内容を理解し、分かった事柄から、どういうものが考えられるか」を求められていることが多いと思います。クリエイティビティと言う部分で言うと、いつも自分のアイディアを求められ、自分の考えを発表することが多いので、結果そういう人が多いと感じられるのだと思います。
学校の仕組みに縛られない学び:留学体験がもたらす自信
藤) お話を聞いていると、カナダはとても「学び」に学校自体が向いていると思いました。そのために、方法は色々とあり、時間がかかってもいいし、アプリを使ってもいいし、休憩をとってもいい。「学び」ができるようにそのための方法があるなら使おう、小さな間違えは気にしなくてもいいという柔軟性と多様性、寛容さがあるように感じます。細かなルールにみんなで沿って社会生活を営むため必要な資質・能力の基礎を学ぶ日本の学校教育は私は個人は非常に素晴らしく価値があると思っていますが、一方で、そのことが発達障害やグレーゾーンの子どもたちには、息苦しさを生んでいるとも感じています。
Rieさんは、発達特性のある子どもがカナダの留学をしてから日本に戻ると、どういうところが本人にとってメリットがあると思われますか?
Rieさん) 「ところかわれば僕/私は普通なんだ」というところに本人が気付けるということだと思います。日本にいると「やっぱりみんなと違うんだ」という気持ちになるところが、「日本では一つの学校の仕組みに合わなかったかもしれないけど、それは自分がダメってことじゃないんだ」と。それを体験して自己有能感に繋げてほしいと思います。
Rieさんのプロフィール
「日本サイエンスオブリーディング」主宰。カナダ・オンタリオ州のカトリック公立小学校のEducational Assitant。作業療法士として療育センター勤務の経歴をもつ。「日本サイエンスオブリーディング」では、英語の読み書きのスキルを科学的に研究した指導方法をもとに「ひらがなを読むように英語が読める」指導を展開。「カナダ式脳科学フォニックス」を英語指導者たちに広め、認定講師を多数輩出中。小学生から大人、また、発達障害のある子どもや不登校のお子さんたちの「できる」を伸ばしている。4人の子供を育てる母
取材・執筆:Connect Study海外留学 藤 奈津子
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